MRSAの症状と感染経路!治療の仕方や消毒などの感染対策も!
MRSAというと、院内感染で起こる病気の名前だという漠然としたイメージをお持ちの方も多いかもしれませんが、実はMRSAは肺炎をはじめとしたさまざまな病気を引き起こす原因となる菌の名前のことです。
また、あまり馴染みがない病気だけに、MRSAの症状だけでなく、感染経路や感染対策などを知らない方も多いことでしょう。
そして、MRSAは薬による治療が難しい場合があると聞きますが、もし自分や家族が検査でMRSAが出た場合にはどうすればいいのでしょうか。
そこで今回は、MRSAという菌について、感染経路や感染した場合の症状、治療によく使われるバンコマイシンなどの抗生剤や、看護するときに知っておきたい感染対策や消毒の仕方などについてをまとめてご紹介します。
MRSAとは?
■MRSA=「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌」
MRSAとは、Methicillin Resistant Staphylococcus Aureusという英語の名称の頭文字を取ったもので、日本語では「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌」といい、メチシリンという抗生物質に対する耐性がある黄色ブドウ球菌のことです。
実は、メチシリンはペニシリンという抗生物質に耐性のある黄色ブドウ球菌に対して開発された薬でした。
というのも、ペニシリン耐性黄色ブドウ球菌がペニシリンを分解する酵素を作りだすということがわかり、ペニシリンと基本的な作りは同じながら、その酵素によって分解されない薬として開発されたのがメチシリンだったのです。
しかし、MRSAはそのペニシリンとメチシリン(そして、その仲間のβラクタム系と呼ばれる抗生物質)に共通する基本構造が作用することができない酵素を作り出すようになりました。
なお、現在ではMRSAはメチシリン以外にもセフェム系やマクロライド系など多くの種類の抗生物質に対して耐性を持っており、感染してしまった場合には治療が難しくなることが知られています。
■黄色ブドウ球菌自体は特別な菌ではない
MRSAは黄色ブドウ球菌の一種であり、この黄色ブドウ球菌自体は健康な人間の体にも存在していることがある、いわゆる常在菌です。
なお、よく見られるのは鼻の中や手の皮膚などで、成人の鼻の中には2~3割の確率で常に存在していると言われています。
その他にも陰部や喉など、湿度が高くなりやすい場所には多く見られることがあるようです。
ちなみに、子供がよくかかる皮膚病のひとつである「とびひ」は、掻き壊した傷などに黄色ブドウ球菌が感染することによって起こります。
その他にも、傷の化膿や食中毒などが黄色ブドウ球菌が原因となって引き起こされる主な症状です。
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MRSAの感染経路
■MRSAは手によって接触感染する
MRSAは、菌を持った人が鼻などを触った後の手や、その手が触れたものを介して次々と運ばれていく接触感染によって広がっていきます。
ですので、不特定多数の人が訪れる場所のドアノブなどにMRSAが付いていると、それを触った人の手に菌が移り、さらにその人が触った物や人に移るといったように、どんどん他の場所へと運ばれていくことになるのです。
また、病院であれば患者→スタッフ→患者といったケースや、MRSAがついた医療器具など→スタッフ→患者などのケースが考えられるでしょう。
■「MRSA=院内感染」とは言い切れない
MRSAというと「院内感染」といったイメージがある方も多いかと思いますが、病院内でMRSAが発生しやすいのには理由があります。
それは、病院ではさまざまな種類の抗生物質が治療に使用されており、常在菌である黄色ブドウ球菌がそれらの抗生物質にさらされることで耐性を獲得してしまうからです。
また、健康な人ならばほとんど問題のない常在菌に感染してしまう可能性のある、免疫力が極度に低下している人や、菌が繁殖しやすいカテーテルなどの医療器具を使用している人が多いことも挙げられます。
しかし、病院以外でもMRSAの存在は欧米で90年代から確認されており、2006年には日本でもそのような市中型のMRSA感染による死亡者が出ていますので、今後は日本においても病院以外の場所におけるMRSA感染が増えるかもしれません。
■MRSAに感染しやすい人とは?
健康な人で、切り傷などのケガのない人であれば、常在菌である黄色ブドウ球菌の一種であるMRSAに感染することはほとんどありません。
しかし、次のような条件に当てはまる人はMRSAに感染しやすく、また重い症状を引き起こす場合があります。
・大きな手術を受けた後
・カテーテルや気管内挿管などの治療を受けている
・ガンや糖尿病、または免疫抑制剤などを使用している
・抗生物質を長期に渡って使用している
・ステロイド剤を長期に渡って使用している
・寝たきりの高齢者(特に床ずれができている場合など)
・新生児、または未熟児
・大きな怪我や火傷を負っている
これらの条件に当てはまる人は、健康な人であれば通常は感染しないような細菌などに感染する「日和見感染」が起こりやすいため、MRSAに感染するリスクも高くなります。
MRSAの検査方法
■血液検査や喀痰検査で判断する
MRSAの検査は、他の細菌に対しての検査と同じように、血液や痰などの感染が疑われる箇所のサンプルを培養することによって検査します。
そして、MRSAかどうかは、培地(菌を培養する土台となる場所)にあらかじめ抗生物質を含んだものを使用することで判断が可能です。
この場合、抗生物質を含んだ培地で菌が認められれば抗生物質が無効である=MRSAであるということになります。
なお、ある程度の時間を置かないと菌が増えませんので、MRSAかどうかの検査結果がわかるまでにはサンプルを取ってから3日程度かかるようです。
■「定着」か「感染」のどちらなのかがポイント
検査でMRSAが検出されたと聞くと不安になるかと思いますが、MRSAが単にその場所に「定着」していただけなのか、それとも「感染」しているのかなどによって、治療の方法などが変わってきます。
先程にもご説明したように、MRSAは常在菌の一種ですので、例えば皮膚や鼻の中、喉などから検出された場合には単にその場所に存在していただけで、感染症の原因となってはいない可能性があるため、MRSAが検出されたからといって、症状がない場合などには特に治療が行われないこともあります。
なぜならば、MRSAに対してむやみに薬で治療を行ってしまうと、新たな耐性菌を生むというリスクもあるからです。
ですので、治療を行うのは、通常細菌が存在しない血液などからMRSAが検出された場合や、感染リスクが高い人から検出された場合、またその時の症状などから感染が判断された場合になります。
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MRSAが引き起こす主な症状
■皮膚などの体の表面に感染した場合
MRSAが皮膚や粘膜などの体の表面のみに感染している場合、次のような症状が主に現れます。
・皮膚の化膿(傷口や床ずれが起きている場所など)
・蜂窩織炎(皮膚の深い場所が化膿する病気)
・伝染性膿痂疹(いわゆるとびひ)
・ものもらいや結膜炎
・中耳炎
■臓器などの体の内部に感染した場合
MRSAが臓器などの体のより深い部分に感染した場合には、次のような重い症状が現れることがあります。
・髄膜炎
・肺炎・肺膿瘍・膿胸
・腹膜炎
・腸炎
・敗血症(感染症によって全身に炎症が見られる状態)
・菌血症(血液中に細菌が認められるのみの症状)
・尿路感染症
・心内膜炎
MRSAの治療方法
■MRSAに有効な抗菌薬
MRSAに対しては、症状などに応じて次のような抗生剤が使用されます。
・バンコマイシン
適応:敗血症・菌血症・感染性心内膜炎・肺炎・肺膿瘍・膿胸・腹膜炎・髄膜炎
副作用:腎障害、肝障害など
・テイコプラニン(タゴシッド)
適応:敗血症・菌血症・肺炎・肺膿瘍・膿胸・皮膚感染症
副作用:肝障害、血液・造血器障害など
・アルベカシン(ハベカシン)
適応:敗血症・菌血症・肺炎・肺膿瘍・膿胸
副作用:腎障害、脳神経障害(難聴や平衡感覚への影響)など
・リネゾリド(ザイボックス)
適応:敗血症・菌血症・肺炎・肺膿瘍・膿胸・皮膚感染症
副作用:骨髄抑制、視神経障害(長期使用時)など
・ダプトマイシン(キュビシン)
適応:敗血症・菌血症・皮膚感染症・心内膜炎
副作用:消化器症状、肝機能障害など
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MRSAの感染対策・予防法
■まずは手を清潔に!うがいも有効
手からの接触による感染がほとんどであるMRSAの感染対策として有効なのは、手洗い・うがいです。
なお、手洗いをする際にはせっけんを使用して爪の周りなどもよく洗い、流水でしっかり洗い流すようにしましょう。
また、手を洗った後には清潔なタオルやハンカチ、ペーパータオルなどを使用してきちんと水滴を拭き取り、手を乾かすようにしてください。
そして、うがいも軽くすすぐ程度ではなく、きちんと行うようにしましょう。
■室内の掃除も念入りに
不特定多数の人が触れる場所を中心に、室内の掃除をこまめに行うことも感染対策には必要です。
なぜならば、ホコリなどが溜まった不衛生な環境では細菌が繁殖しやすく、人がよく触れる場所には菌が付きやすいからです。
ですので、人の手が触れやすいテーブルやベッドの手すり、ドアノブといった場所はきちんと拭き掃除を行ったり、床もこまめに掃除機などでホコリやゴミがない環境を保つようにすることが大切です。
また、布団カバーやシーツなど、体に触れるものについても定期的に洗濯し、きちんと乾燥(出来る限り日光で消毒も兼ねるのが望ましいです)させたものを使うといいでしょう。
■MRSAにはアルコール・熱湯が有効
MRSAに対しては、アルコールなどの消毒薬や熱湯による消毒も有効ですので、これらを手洗い・うがいや掃除と組み合わせて使用することで感染対策に役立てることができます。
特に、手に入りやすい消毒用エタノールや、消毒用エタノールを含んだ手指用のスプレーなどは手洗いができない場合でもMRSA対策ができますので、人が触れる場所の掃除に使ったり、手洗いの代わりに使用するといいでしょう。
また、熱湯であれば80℃で10秒間、70℃で30秒間の消毒によってかなりの菌が減るということがわかっています。
こちらは、MRSAに感染した人の膿や痰が付着したリネン類などを洗濯する際に有効ですので、看護の際には覚えておきたいですね。
まとめ
いかがでしたか。
MRSAは皮膚の化膿や肺炎以外にも、中耳炎や心内膜炎、髄膜炎などさまざまな感染症の原因となりますが、多くの抗生剤に対して耐性を持っており、治療が難しい場合が多いという実態があります。
また、感染経路としては人の手を介した接触感染が最も多く、不特定多数の人が訪れたり、日々さまざまな抗生剤が使用される病院では院内感染によって大流行してしまうことがあるようです。
そして、治療にはバンコマイシンをはじめとしたいくつかの抗生剤が使用されますが、これらの薬に耐性を持つMRSAが生まれる可能性もあり、検査などで感染を見極める必要があります。
なお、感染対策には手洗い・うがいや、身の回りを清潔にしておくことの他、アルコールなどの消毒薬などが有効であり、特別なことは必要ではありません。
ですので、ぜひとも感染リスクが高い方が身近にいらっしゃる方は日頃からこのような対策を心がけ、MRSAを出来る限り防ぐようにしたいですね。
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